2006年09月13日

アラブの王様は大変だ

サウジアラビアの王家は兄弟相続が基本だ。
王位を継ぐのは初代国王アブドゥルアジーズ・イブン=サウード直系の男子に限るとされている。1953年に彼が死んで以降、36人とも50人とも言われる息子たちの間で、代々王位が継承されてきた。
今の国王も皇太子も、初代国王の息子である。だから、サウジ王家は、いまだ第二世代なのである。
 
当然のことながら、当事者の高齢化が進んでいる。
去年即位した国王は1923年生まれの80代。皇太子も1931年生まれだから70代の後半だ。順番が来る前に死んでしまった兄弟も少なくない。
第三世代の最年長は現国王よりも年上である。このまま第二世代の最後まで王位が継承されれば第三世代のかなりの部分がスキップされることは避けられない。

それどころか、王家は既に第四世代、第五世代を迎えているのだ。
一夫多妻のお国柄、それぞれに多くの息子がいるわけで、子孫の数は増え続ける一方だ。そんなこんなで、サウジには王位継承権を持つ「王子」が800人以上もいる。王族の数となると見当もつかない。一説には2万人とも言われるが、これとても控えめな数字であろう。王族に含まれるのはサウード家だけではないからだ。初代国王以前に分家した傍流も王族と見なされる。

とは言うものの、800人も王子がいるから宗教国家サウジアラビアの王家は未来永劫に安泰なのかと言えば、それとこれとは話が別なのである。

第一に、そもそも宗教国家であることに対する一般国民の反感がある。
時代錯誤とも言うべき厳格な宗教政策は、実際かなりの反発を招いている。
2002年に、ある女子高校(サウジに男女共学の学校は無い)で火災が起きて多くの少女が犠牲になった事件がある。この時ムタワ(宗教警察)が消防隊や救急隊(すべて男性)の学校内への立ち入りを妨害し、なおかつヴェールを着けていない学生と職員(学校内は女性だけの環境だからヴェールを着用していなくても良い)が校外へと逃れることを阻止した。その結果として多数の死傷者を出したのである。この時ばかりは、多くのメディアが激しく宗教警察を非難する論陣を張った。現場には多くの消防車も救急車も駆けつけていたのだから、宗教警察の妨害が無ければ助かった者も少なくないだろうと言われている。
他にも、例えば女性にも自動車の運転を認めるべきだという声は国民の間でも高い。少なくとも、女性の自動車運転が宗教的な理由で許されないとする主張は、さすがに減ってきた(言うまでもないがコーランのどこにも、そんな記述は無い)。

第二に、一方の宗教保守層からは、サウジ王家は親米の度が過ぎるとの批判がある。
アメリカにとってみれば、サウジアラビアは、あらゆる中東政策の鍵である。アフガニスタンやイラク、あるいはレバノンやパレスチナが、どれだけアメリカの思い通りになろうとも、サウジに反米政権が立てばアメリカの負けなのだ。逆に言えば、中東にどれだけ反米感情が渦巻こうとも、サウジの親米政権が続く限りにおいては、アメリカの勝ち、だとも言える。だからこそ、サウジは中東のあらゆる紛争に無関係ではいられない。

第三に国内に住むシーア派の存在がある。サウジアラビアにおけるシーア派は人口比一割程度の少数派であるが、彼らは油田地帯である東部沿岸に集中している。シーア派が多数を占める地域が独立もしくは自治権を主張すれば、残るのは不毛の砂漠だけである。

絶対王政国家サウジアラビアにも、確実に変化は起きている。
変革を求める声が聞こえにくいのは、決してその数が少ないからではない。宗教的な保守強硬派の主張が、しばしばテロリズムを伴っているからに過ぎない。

今世紀になってから、バーレーン、カタール、オマーンといった湾岸諸国で次々に女性参政権が実現し、昨年ついにクウェートでも、女性が参政権を獲得した(選挙の結果、初の女性議員は実現しなかったが)。
次は私たちだって、と考えるサウジ国民も少なくない筈である。
posted by 非国民 at 01:26| Comment(4) | TrackBack(0) | 歴史と文化 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
TB ありがとうございました。

私も、イラク戦争が始まろうという頃から、「サウジがこけてもアメリカの勢力が中東に残れるように先制攻撃するのかな」と思っていました。
「イスラム原理主義」のテロリストはサウジアラビアから多く出ていますし。
石油埋蔵量はともかく、「危険埋蔵量」はダントツの国ではないかな。

サッカーでサウジ代表が日本に来ても、宗教国家サウジという紹介は、日本では見かけないようです。
「民主主義を広めるアメリカの戦争に協力する立場としては都合が悪いから」とマスメディアが自主規制しているのか、「アラブの王様、お金持ち」なんて御伽噺程度の認識でも構わないと一般市民が思っているのか。(「ようするに石油が入ってきさえすりゃあいいのよー」という感じかな)
Posted by ゲスト at 2006年09月13日 09:46
来日したアラブの王様が、
「オー!かっこいいネー!ワンダホー!」と、
金ピカの霊柩車をご所望されたという話を思い出しました。
Posted by ゲスト at 2006年09月13日 14:33
すみません。
ちっとも関係ないですね。(^_^;)
Posted by ゲスト at 2006年09月13日 14:34
>kuronekoさん
「危険埋蔵量」言い得て妙です。スーダンとかにも、かなり埋まってそうです。
もう一つの宗教国家イランにも、確実に変化は起きているのですが、やはりその声は聞こえにくいです。ブッシュの馬鹿げた先制攻撃論が、イラン国内における穏健改革派の立場をかえって難しくしている、と言えます。

>水葉さん
関係ないけど面白いですね、その話。
Posted by 非国民 at 2006年09月14日 11:47
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