
例えばハンナ・ヘーヒがダダの庖丁で切り刻んだように
何を隠そう、別に隠していたわけでは無いが、廃墟の風景が好きだ。打ち捨てられ、忘れ去られた人工物が、時の流れとともに朽ち果て崩れ落ち、ゆっくりと自然へと還り行く過程で発現する鮮烈なヴィジュアルは、この世の無常、人の栄華の儚さを知らせるだけでなく、それ自体が純粋に美しい。
ハンガリーのMitsouraは、そんな「廃」風景のイメージを何故か強烈に連想させる不思議なバンドだ。いや、正確には、ヴォーカリストMitsou(Monika Miczura)の声が、と言うべきだろう。
奇声、というのとも違う。そもそも人の声としてのリアリティが綺麗に欠落しているのだ。その所業は、生物と無生物の境界を悠然と浸食し、<この世>の輪郭さえも曖昧にしてしまう摩訶不思議な磁力を帯びている。
本アルバムは2008年に出たMitsouraの2枚目。バンドと言いつつ、実質的にはMitsouのソロプロジェクトに近いのだろうと想像するが、メンバーは5人。彼女の他にAndrás Minori(サックス、カヴァル、シタール、その他管弦なんでもござれのマルチプレーヤー)、Márk Moldvai(キーボードとコンピュータープログラミング担当)、Péter Szalai(タブラからカリンバまでパーカッション全般担当)、Miklós Lukács(ツィンバロン担当)。

インナーのメンバー写真も、どことなく「廃」な感じである。
メンバーの構成からも想像出来るように、サウンドはトラッドな旋律に現代的な解釈を加味しつつエレクトリックに料理したもので、完成度は極めて高い。プログラミングを多用しつつも全体の印象は結構アコースティックだったりする。そして、そこに絡み付くプリミティブなヴォーカルの魔力によって、一度聴いたら忘れられない独特すぎる世界が展開している。歌われている楽曲は、ラジャスタンやエジプト、あるいはバルカンの古謡がベースらしく、ロマのルーツを辿る構成にもなっているようだ。
オフィシャルサイトで一通り試聴出来る。どの曲も素晴らしいが、特に9曲目の「Pundela」は必聴。
同志オススメの9曲目を聴いたら、あまり関係ないけどメセニーの
http://www.youtube.com/watch?v=kHT9MjkFgBE
を思い出しました。私が好きな曲で原曲はカンボジアの民謡ですが、オッサン軍団が歌っているのでこっちは声をだいぶイジッていそう(笑)。
Besh o droMという、やはりハンガリーのロマ系バンドがあって、初期のアルバムには彼女がヴォーカルで参加しているのですが、やはり同じ声です。私はBesh o droMの方を先に聴いていましたが、名前を確認するまでも無いくらいに、一度聴いたら忘れられない奇天烈な声です。
http://www.youtube.com/watch?gl=JP&hl=ja&v=ftebqV_bBIo
メセニーの「Above the treetops」ええですなあ。いわく言い難い懐かしさが漂っています。彼が弾くガットギターには独特な質感があって、私は好きです。