2009年07月24日

Niyaz【Nine Heavens】

niyaz.jpg
妖気滴るペルシアン・グルーヴの絢爛、あるいは<革命>によって禁圧された官能性の召還。
 
在米イラン人を中心にした三人組、Niyazのセカンドアルバム。2008年の傑作である。

メンバーは三人。紅一点にしてヴォーカル担当のAzam Ali、弦楽器全般を担当するマルチプレーヤーのLoga Ramin Torkian、ドラムとエレクトリック・プログラミング担当のCarmen Rizzo。他に様々なゲストミュージシャンが参加しているが、基本コンセプトはこの三人が決定していると見ていいだろう。AliとTorkianの二人はイラン生まれで、<革命>後に故国を離れ、紆余曲折あって現在はアメリカで活動している。

かつてのイランはポップス大国であった。70年代イランのポピュラーミュージックシーンは、間違いなくイスラム世界の最先端を行っていた。しかしその後の<革命>によって、「伝統的でない」音楽は、片っ端から禁圧の対象となってしまった。現在のイランでも、少なくともNiyazのようなバンドが活動することは不可能だろう。女性のボーカルというだけで既にNGなのだから。そんなペルシアン・ポップスの潮流が他でもないアメリカで爛熟したという事実は、いかなる歴史の皮肉なのか。

さてこのアルバム、全編に漂う世紀末感が素晴らしい。その濃厚な妖気は、ジャケットからも強烈に発散されている。

Azam Aliのヴォーカルが良い。割とすっきりした声質で、コブシ回しにもアラブ音楽の様なくどさは無いが、湿り気を帯びた「妖気」が浸潤して来る様相には深い官能性すら感じられる。ペルシア語はインド・アーリア系統の言語だから言葉の響きによる部分も大きいのだろうが、歌に関してはインドやパキスタンのポップスに近いところもある。しかしメロディーや楽器の響きは明らかに中近東。そして、えも言われぬ「ごちっく」感。実に不思議な音楽だ。

Mercan Dedeの【800】に通じる雰囲気を感じたのは偶然では無いらしい。本作では、ペルシアやトルコの古典詩が歌われているが、取り上げている詩人の名前を見ると、そこにはやはりスーフィーへの深い傾倒が見て取れる。Niyazの音楽は起伏や抑揚に乏しく、往々にして内省的な展開に終始するが、それもスーフィーの世界観を反映したものと思われる。ちなみにMercan Dedeのアルバム【Breath】ではAzam Aliのヴォーカルがフューチャーされている。

実は本アルバムは二枚組。disc oneは「Nine Heavens」と題され、disc twoのタイトルは「Nine Heavens - The Acoustic Sessions」である。曲順は違えども、ほぼ同じ曲が両方に収録されている。良く言えば、どちらも同じように素晴らしく、敢えて苦言を呈すれば、全体の雰囲気はどちらも一緒である。いずれにせよ甲乙は付け難く、私は二枚とも好きだ。

何とバンドのオフィシャルサイトで全曲聴けてしまうのだ。オープニング曲「Beni Beni」のイントロからして凄まじく格好良い。2曲目の「Tamana」、3曲目の「Feraghi - Song of Exile」と佳曲が続く。

youtubeにも多数の音源が載っている。私のお気に入りは、6曲目の「Iman」。この曲はウルドゥー語で歌われていて、南アジアの香りを強く感じる。

<革命>によって禁圧された官能性の召還を、是非とも御堪能あれ。
posted by 非国民 at 01:34| Comment(4) | TrackBack(0) | 音楽;北米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
これはカッコいいですね。ボーカルのこぶし回しなんかは、いかにも中近東って感じだけど、リズムにちょっとカレー味入っているような?
ボーカル無しの、このリズムトラックだけでも楽しめそう。
Posted by やきとり(アンチはなゆー) at 2009年07月25日 08:08
たしかにトラックが秀逸ですね。プログラミングのセンスもさることながら、精緻な演奏技術に支えられたナマ楽器の響きが音空間に幽玄な奥行きをもたらしています。サズやヴィオールを自在に操るLoga Ramin Tarkianはフラメンコギターの名手でもあるそうな。
Posted by 非国民 at 2009年07月26日 01:36
20年くらい前、これに似たテイストのCD持ってたんだけど見あたらなくなっちゃったなー今…。なんていったっけかなー。この、Niyazより打ち込みの比率が高くてヘビーな感じで、中近東のニルスペッターモルベルっつー感じでスキだったんですけど。これもいいですね、気にいりました!
Posted by kobugimori at 2009年07月26日 22:49
中近東のニルスペッターモルベルですか。それは格好良さそうですね。思い出したら是非教えて下さい。
wax poeteicみたいな感じなのかな?
http://ch06683.kitaguni.tv/e298093.html
Posted by 非国民 at 2009年07月27日 23:32
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