2009年04月04日

Pat Boone【In a Metal Mood】

pat_boone_in_a_metal_mood.jpg
若気の至りと笑うにはあまりにも出来過ぎた稀代の迷盤。


 押しも押されもせぬショービズ界の大御所、パット・ブーンである。

時は1997年、もはや還暦も過ぎた彼が、何を血迷ったのか唐突にリリースしてしまった渾身の問題作、それは衝撃のヘヴィメタル名曲カヴァー集なのであった。

伝え聞くところでは、愛娘に「たまには若者の音楽を聴けよ」と言われたのが本アルバム制作のきっかけだそうで、そのせいかどうかは分からないが、とにかく異常に気合いが入っている。まず選曲が凄い。アルバムのサブタイトルにもなっている「No More Mr. Nice Guy」はアリス・クーパーの曲。他にもDeep Purpleの「Smoke on the Water 」、ツェッペリンの「天国への階段」、ガンズの「Paradice City」と、お好きな方には堪らない曲が並び、果てはジミヘン、ヴァン・ヘイレン、オジー・オズボーンからメタリカまで縦横無尽にカヴァーしまくっている。アルバム全体としてはメタルと言うよりもハードロック寄りの選曲になっている気がするが、大御所は細かいことを気にしない。何よりも【In a Metal Mood】というアルバムタイトルが下界の凡人を挑発する。

それにしても、もう少し無難というかゴマカシの効く曲にしておいても良かったじゃないかと思うのは私だけだろうか。大御所は常に直球で勝負する。

大御所が気合いを入れてしまったということは、カネがかかっている、ということでもある。ロマンチックに歌い上げるパット・ブーン翁のバックには総勢50人にも及ぶゴージャスなビッグバンド。いずれも一流の腕利きを集めたのであろう、スウィング感たっぷりのジャジーな演奏を聴かせる。11人のアレンジャーを使ったという編曲も凝りに凝っている。「ビッグバンドの編曲やかくあるべし」と教科書に載せたいほどの出来映えだ。

ジャジーでゴージャスなビッグバンド・ロックの名曲を是非お聴きあれ。
Holy Diver
You're Got Another Thing Comin'

これはロックの冒涜なのか、あるいはロックの脱構築か。

ジャケットには、もうそれだけで往年のファンが泣き出しそうなレザーベスト姿のバット・ブーン本人。その瞳に輝く狂気の光は、彼がどこまでも本気であることを窺わせる。

言うまでもなくセールス的には見事にコケたこのアルバム。しかし、駄作と切って捨てるにはあまりにも惜しい迷盤である。ちなみに日本版のタイトルは「メタルバカ一代」。許してやれよ、みんなもう。
posted by 非国民 at 02:56| Comment(3) | TrackBack(0) | 音楽;北米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
パット・ブーンって50年代末、60年代初めにヒット曲が多いポップスの人ですよねえ。ロックも守備範囲なの?音楽全体が時代とともにシフトしているの?
小学校低学年から見て、パット・ブーンって大学生のお兄さんという感じでしたが・・・。あたしも歳をとるわけだ。
Posted by kuroneko翁 at 2009年04月04日 09:03
うーん、これは知らなかったです。

昔のポピュラー歌手が時代を経て再評価された話はよく聞きますが、自らすり寄った例は初めてではないでしょうか。
まあ「年寄りの冷や水」なんだろうけど、日本語版wikipediaでは「メタルバカ一代」の記述が半分以上占めていて、
「砂に書いたラブレター」のメロディすら知らない、メタルファンによる編集(?)も同等にセンス悪過ぎというか何というか(笑)。
で、youtubeを拝見すると、これってメタルじゃないですよねえ。演歌歌手が日本語ポップスをカバーする時のような、
これまた見当違いなセンスの悪さを感じたりして☆てへ
Posted by やきとり at 2009年04月04日 21:32
老師kuroneko
たしかに大学生のお兄さんキャラで売ってた人ですね。実はプレスリーと同世代だったりするのですが、プレスリーをサブカルチャーとすれば当時のメインカルチャーの王道を地で行った人だと言えます。もっとはっきり言えば、プレスリー以前の人。さればこそ、本アルバムの常軌を逸した衝撃がある訳です。

同志やきとり
とは言うものの、実はブーンさん自身は己の音楽スタイルにさほどこだわりが無いようにも見受けられます。その時々の流行に節操無く乗っかって、要するに売れれば何でも良いという、ある意味でポピュラーシンガーとしては非常に正しい態度を貫いています。
本作のセンスが今ひとつイケてないのは、キツい言い方をすれば所詮その程度の歌手でしかない、ということなんでしょう。
もっとも、最初からロックを期待せずにビッグバンドだと思って聴けば、やはりこのアレンジは本当に良く出来てると思います。
Posted by 非国民 at 2009年04月04日 23:38
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