2009年02月12日

偶然と必然の対位法

 
栗コーダー・カルテットの壺にハマって以来、ウクレレものを聴き漁っている。真っ先に思い出したのがThe Ukulele Orchestra of Great Britain。ファーストアルバムが出たのは私は大学生の頃だから、最初に聴いたのはもう20年も前だ。久々に聴こうと思って部屋中を探すもCDを発見出来ず。誰に貸したんだろうなあ。仕方なくyoutubeを探すと何年か前のライブの模様が載ってて、これがまあ面白いのなんの。片っ端から聴きまくってしまった。

結成当時から変わらない「ウクレレなのにタキシードとイブニングドレス」という生真面目なスタイル。その一方では、類まれなる諧謔精神を発揮する。大英ウクレレ交響楽団の名は伊達じゃない。

驚くべきは「Fly me of the Handel」と題された一曲(?)。本当にタダゴトではない。とにかくお聴きあれ。

リーダーのジョージ・ヒンクリフGeorge Hinchliffeが「ではここでヘンデルの曲を」と言うと(奴らはイギリス人なので、ジョージ・フレデリック・ハンドルと呼んでいるが)残りのメンバー全員が「いやいや、俺は私はこの曲があの曲がやりたい」と好き勝手に言い倒し、結局全部を一度にやってしまうという奇術だ。バロックの巨匠ヘンデルの曲を主題にして、Fly me to the moon〜Love story〜Autamn leaves〜Killing me softly with his song〜Hotel California〜I will surviveと強引かつ自然な変奏が続き、遂には、ありがちなコード進行に載せて6人それぞれが別々の歌を歌い続けるという曲芸的な力技に突入する。メチャクチャ強引なのに、何故かしっとりと落ち着くその奇跡のハーモニーは、何度聴いても感動せずにはいられない。何時までも、何処までも聴いていたいと私は思う。

凡庸なバンドなら只の余興で終わりかねない着想を、かくも美しく音楽的に成立させてしまうメンバーの力量や畏るべし。原曲のメロディが微妙に変えられている部分もあるので、緻密に計算された結果でもあろう。Hotel Californiaに至っては強引以外の何物でもない。まさに偶然と必然の対位法である。

ひときわ耳に残る「I will survive」の美声は、舞台女優としても活躍しているHester Goodman。良いところで歌詞を間違えて眼が泳ぐのも御愛嬌。彼女の歌声はこちらでも聴くことが出来る

渋いバリトンで「Fly me to the moon」を歌うのはPeter Brooke-Turner。役者としてのキャリアもあり、Tony Penultimateの名で何枚かのソロアルバムを出している。世界で最も長身のウクレレ奏者との噂あり。You dont bring me flowersではその巨体をネタに笑いを取っている(冒頭で小柄なへスターに「座れ、いいから座れ」と言われ続けている)。この曲のアレンジもパフォーマンスも筆舌に尽くし難い面白さで、まさに“モンティ・パイソンの国”の底力を見せつけられる思いだ。

「Love story」を歌うのはDavid Suich。結成以来のメンバーだ。ブズーキ奏者としてThe Missing Puddingsというバンドを率い、アルバムも出している。

「Autamn leaves」を歌うのは、こちらも結成以来のメンバーであるKitty Lux。ウクレレ・オーケストラに参加する以前は、何とパンクバンドをやっていたという。彼女の柔らかな歌声からは想像も出来ないが。

「Killing me softly with his song」を歌うのはWill Grove-White。もともとは映画の世界で監督や撮影監督をしていたらしい。そんな彼も昨年ソロアルバムを出している。ホント、みんな良い声してるもんなあ。

ベース・ウクレレを手に強引な「Hotel California」を歌うのはJonty Bankes。ベーシストとして広く活躍しているだけでなく、卓越した口笛吹きでもある。その妙技は、スパゲティ・ウェスタンの名曲をカヴァーした「The Good, the Bad and the Ugly」で聴くことが出来る。

そして黙々とウクレレを弾き続け、途中休む、リーダーのGeorge Hinchliffe。彼のリードヴォーカルと諧謔精神はJohnny Cashのカヴァー「Orange blossom」で堪能出来る。

メンバー全員がヴォーカルを取るってのが、このバンドの凄いところだと思う。その個性と調和のバランスも。そのくせ、各人が持っているウクレレはバラバラだ。ギブソンありオベーションあり、ピーターに至ってはリゾネーター(ドブロ)・ウクレレだ。弾き方もバラバラで、指弾きありピック弾きあり。もとより、ウクレレにはこれと決まった「正しい」弾き方などない訳で、その自由な気風がバンド全体に満ちている。そして、全員が心の底から音楽を楽しんでいるという、その心意気が、間違いなくこちらにも伝わって来る。

現在では、かつてのメンバーRichie Williamsが復帰して8人で活動しているThe Ukulele Orchestra of Great Britain、これからも目が離せなバンド、もとい「オーケストラ」だ。
posted by 非国民 at 03:03| Comment(2) | TrackBack(0) | 音楽;西欧 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
わあ〜・・・もりだくさん!そして、興味ありあり。すごく聴きたいけど、会議の資料があ〜・・・(泣)。
明日の会議と、土曜日の子供達と一緒に科学の実験する会(勤め先の本屋、主催)が終わったら、ゆっくり聴かせてね!
やっと、音に戻れそう(笑)!
Posted by ちろ at 2009年02月12日 19:29
時間が出来たら、是非「Fly me of the Handel」を、どぞ。
これを聴くと「人間て凄いなあ」と素直に感動します。そして同時に「人間て面白い」とも思います。
Posted by 非国民 at 2009年02月12日 23:35
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