
異界へと誘う魅惑のデジタル・モーラム。
ラオスに凄い新人が出たと風の噂に聞きつけて、このアルバムを買ったのは去年の春だったかと思う。2005年のアルバムだから、案外私の情報網は遅い。
さて、このノイ・セーンスリヤー(どうやってそう読むのか、さっぱり分からないが)、噂通りの凄い歌手だ。その世界は、一聴してブッ飛ぶというというよりも、いつの間にかジワジワと引き込まれる凄さがある。
小学生の頃から民俗音楽に興味があったという彼女は、中学生にして民俗音楽バンドを結成してしまう。高校に入ってからは、ポピュラーミュージックを習得すべく、ドラム、ギター、キーボートの練習に明け暮れたという。メルボルンの大学で建築学(何故だ!)を学んだ後、本格的に音楽活動を開始。本アルバム発表時にはラオスインターナショナルテレビのニュースアナウンサー(英語アナ)でもあった。現在は小学校で教鞭を取りつつシンガーソングライターとして活動している・・・らしい。ちなみに初代ミス・ヴィエンチャンでもある。いったい何者なんだ、ラオスのGrace Nonoか? このアルバムでも、歌うだけでなく作詞作曲からサウンドプロデュースまで自分でこなしている。
歌われているのは、基本的にはモーラムというラオスやイーサーン地方の民謡。それを「これでもか」とばかりに彼女は崩しまくっている。バックトラックはほぼ全部がデジタル。ハウスありトランスありR&Bあり。時にはヴォーカルにまでヴォコーダーをかます大胆さ。それでいて、聴けばやっぱりモーラム以外の何物でもないところが、本当に凄い。彼女がモーラムを知り尽くしているからこそ可能な力技なのだろう。
ポップスとしては泥臭く、ワールドミュージックと呼ぶには薄味な、ハイパー土着デジタル民謡。その懐かしい情感と無機質な同時代性の不条理な共存があまりにも斬新だ。
youtubeにいくつか載っていたので拾ってみた。
分かりやすいのが、例えば「koy-deuan」。「宅録か!」と思わせるチープなトラックに載せて、稲作文化圏のユルーい旋律が展開している。このPVを見ると、ミス・ヴィエンチャンの肩書きは伊達ではないようで、ジャケットの写真はもうちょっとどうにかならなかったのかと思う。ついでに言えば、今回は掲載したジャケットが妙にボケているが、これは拾って来た画像が荒いのではなく、もともとそういう印刷なのだ。印刷のレベルはその国の工業力を如実に示すもので、その辺のユルさも微笑ましい。
もう一曲「bok-ma」。往年の日本を彷彿とさせる、アジアンポップス特有の情感に満ちた佳曲だ。このあたりを聴くと、ポピュラー志向とは言っても欧米のそれではなくフレンチポップスの香りがする。
非国民一番のお薦めは9曲目の「nong-khor-lik-tarng」。唐突に英語で始まるこの曲の、しっとりとした情感が本当に良い。あっさりしたデジタルなバックトラックが適度に湿っぽさを取り除いて、清涼な歌声を際立たせている。その真っ直ぐな濁りの無い哀感が堪らない。今どきのテクノロジーを駆使した、今どきの音楽。それなのに、今どきの世界の流行と全く無縁な世界。どこで時間が止まったのかすら分からない、懐かしい今の音をお聴きあれ。
そしてふわふわしたり はずんだり 浮かんだりしてる 1曲目はおもしろかったあ〜(笑)。
フェイさん ありがとね!
この懐かしさは稲作農耕民のサウダージなんでしょうか。実は音階やなんかも日本のそれに近いんですよね。
正直に言うと私なんかは琉球民謡の方に遥かに強く「異国感」を覚えます。
いくらオシャレぶって隠そうとしても、図らずも漏れてしまう「民族チラリズム」が好きです
ところでyoutube1本目の「koy-deuan」のバックトラックを聴いていて「踊るポンポコリン」を思い出しました。
「踊るポンポコリン」が思い出せません。
YouTube上でのノイたんの動画は最近また増えたみたいで、私は中でもTon - Bor - Daiっていうのがお気に入りです!
http://www.youtube.com/watch?v=a7OBMm3zbjs&fmt=18
はじめまして。コレも同じアルバムに入ってた曲ですね。例によってピコピコした安っぽい音づくりが不思議に良いですね。絵もステキです。
当方最近ではちょっとネタに走り気味なんで、真面目に良い音楽の記事を書こうかと思います。韓国本面は滅法疎いんで、お薦めがあれば教えて下さい。