
トルコ微分ジャズ、あるいは到達不可能な無価値性の追求。
以前紹介したMercan Dede【800】と同じ、doublemoonレーベル。2007年のアルバム。
タクシムTaksimというのはイスタンブルの中心部にある地名だが、どういう由来でこんなユニット名になったのかは分からない。どうやら恒常的なグループではなく、このアルバムだけのための臨時トリオじゃないかと思われる。
不思議な編成のトリオだ。カヌーンkanun、クラリネット、バーラマbağlama(中型のサズsaz)の三人。ヴォーカル無しの全編インスト。ちょっとピンと来ないが、実はトルコの古典音楽における典型的な器楽編成に近いらしい。オスマン帝国時代に確立したというトルコ古典音楽では、カヌーン、ネイnay(トルコの葦笛)、それにウードudの編成が一般的で、Takusim Trioの編成は、偶然なのか狙ったのか、それを踏襲した形になっている。
演奏もちょっと変わっている(と思う)。楽曲は現代風だが、そのスタイルは特異だ。綿密に練り上げられたアレンジという訳でもなく、自由奔放なアドリブの応酬でも無い。変な言い方だが、三人それぞれが、黙々と自己の作業に没頭しているような印象を受ける。それでいて、決してまとまりが無いわけではない。その姿は、まるでサグラダ・ファミリアに鑿を振るい続ける彫刻師のようだ。彼らの紡ぎ出す音楽は一見スカスカのようでいて隙が無い。
私は、よく分からない音楽に遭遇すると安直に「うわっプログレだあ」と評してしまう癖があるのだが、この音楽に関しては、分からないなりにもプログレだという気がしない。どちらかというとジャズに近い感じがする。とは言っても、リズムにもコードにも所謂ジャズっぽい要素は無い。何なんだろう。
クラリネットを吹いているのはラチョ・タイファLaço Tayfaのリーダーでもあるヒュスニュ・シェンレンディリジHüsnü Şenlendirici。古典のみならずジャズ、ポップス、ロマ音楽に通じた達人だ。いくつかの曲ではdudukも吹いている。これも葦笛の一種らしいのだが、正直に白状するとネイとどう違うのか私には分からない。
バーラマを弾いているのはİsmail Tunçbilek。カヌーンはAytaç Doğan。二人とも素性はよく分からないし(ジャケ裏に色々書いてあるんだけど全部トルコ語だし)、名前も読めないが、相当な名手であると思われる。卓越した技巧の持ち主に違いないのに、そのテクニックを敢えて披露すること無く少々ほのめかす程度で収めている印象を受ける。そうやって「馬鹿テク」に走らない所がプログレっぽくないのかも知れない。プロレスラーみたいな風貌のAytaç Doğanが繰り出すカヌーンの、何と繊細で美しいことか。
ちなみにバーラマのİsmail Tunçbilekはメルジャン・デデの『800』でも妖しげなプレイを聴かせている。この『Taksim Trio』も全編に漂う独特な雰囲気が、ちょっと近いものを感じさせる。人脈的に通じているというだけでなく、そもそもトルコの古典音楽がスーフィーの、とりわけメヴレヴィー教団の強い影響を受けて成立したという事情もあるのだろう。
youtubeで探すと結構聴けます。
お薦めはDerdin Ne。このアルバムの中ではポップで入りやすい曲だと思う。
BelalimやGözümも良い。そこには、ストイックでありながら、どこか気怠く睡魔を誘う背徳的な官能がある。あなたもトルコ微分ジャズの世界へどうぞ。
各人のソロ(独奏)も一曲ずつ入っていて、これもなかなか聴き応えがある。
検索用;Laco tayfa, Husnu Senlendirici
baglama, Ismail Tuncbilek
Aytac Dogan,gozum
baglama, Ismail Tuncbilek
Aytac Dogan,gozum
フランスに住んでいたとき、トルコ系音楽のコンサートに何回か行ったけど、その時のことを思い出したよ
(#^.^#)
でも黒木さんが「これは良い」と言ってるので、やっぱりプログレかも知れません。
なんでだろう? よく分かりませんが、めっちゃハマります♪
「Gözüm」のビデオクリップも好きです。
あぁ、しかし、というか しかも、というか、Amazonに1枚だけ残っていたUK盤が買われてしまっているし。。。。。
とりあえず、YouTubeで我慢します。(ToT)
バルカン・モードを基調に、ジャズやプログレの要素がハッキリ分る形で入ってますな。
「Derdin Ne」の、途中からキメのリフが入るところは確かにプログレっぽいし、
「Belalim」の出だしの即興部分はジャズだし、これは素直に気持ちいいかも。
これいいですね。いいの知りました、ありがとうございます。
窓を開けて部屋に夜風を通して聴きたい音楽と思いました。
聴いて気に入ったので、思わず書き込んでしまいました。
あれ、違うのか。ヤヤコシイなあ。
アキラさん
良いでしょ。私も分からないなりにハマってます。しかしもはや売り切れとは。去年出たばかりのアルバムなのに困ったもんです。
ちなみにamazonのページを確認したら、夜景(あれがタクシム広場なのかな)がジャケットになってるやつが載ってますね。たぶん中身は一緒なんじゃないでしょうか。確約は出来ませんが。
やきとりさん
>バルカン・モードを基調に
私もそれは感じたんですが、よく考えると話が逆で、そもそもバルカン一帯はオスマン帝国の一部だったんですよね。ですから、バルカン音楽がオスマン・モードを基調にしてると言った方が正確なのかも知れません。
ファンファーレ・チョカーリアに代表されるバルカン風のブラスバンドは、今でこそ専らウェディングバンドとして存在していますが、もともとはオスマン帝国時代に軍楽隊としてかの地に伝わったものです。それに、今でもバルカン地方には少なからぬトルコ人が住んでいます。彼らだって当然結婚する訳で、ウェディングバンドたるものトルコの古曲もレパートリーとして知っておく必要があるでしょう。
トルコとバルカンのヤヤコシイ通底には、そういった諸々の事情があるんじゃないかと想像しています。
青グリンさん
はじめまして。ぺこり。お名前はかねてより。
かような辺境ブログですが、今後もひとつ宜しうに。
>窓を開けて部屋に夜風を通し
良いですねえ。ちょっと羨ましい。私は終夜賑やかな一角に住んでるもので、窓を開けて音楽を楽しむというのが難しいんです。
今、Amazonを確認したらありました。
8日に見たときはあったのに、昨日は検索しても出てこなかったんですよ。
そうそう、このジャケットでした。
残り1点の在庫、ゲットです♪
非国民さん、ありがとうございましたー!!
おめでとうございます。夜景のジャケットも素敵ですね。
「Gözüm」のビデオクリップなんかを見ても思うんですが、本当にイスタンブルって大都会です。しかも東西文明いいとこ取りの歴史を持つ世界屈指の古都でもある。なんだかんだ言っても、その底力は凄いと思います。
非国民さんは賑やかな所にお住まいですか。ウチは静かで風通りのいいのだけが取り得の家です。夜はウルサクしないよう、窓を開ける時はこっちが音を小さくしてます。
8月は、風呂上りに冷たいものを食べつつ、風にあたりながらこれを聴いて涼める予定。非国民さん、紹介ありがとうございます。
私の部屋も風通りは良いのですが、何せ両隣がパチンコ屋と消防署だし、線路はすぐ近くだし、目の前の道はトラックの往来が絶えないし。夜風にあたって静かに音楽を愉しむという環境じゃないですね。
御存知かも知れませんが、夏の風呂上がりにはコレもお薦めです。
http://ch06683.kitaguni.tv/e284276.html
よ、良さそうじゃないですか・・・。これは好きです。竹サルサ注文しようと思います。
竹の乾いた軽い音、夕涼みに最適ですね。サワヤカ。
いいのを、お薦めありがとうございます。