
巨大なヒョウタンから美旋律が溢れ出る。
稀代のコラフォラ、ママドゥ・ジャバテによるコラ独奏のアルバムなのだ。
と書いてはみたが、これじゃあ何のことだか全く分からないだろう。どこから説明すれば良いのかな。
コラkoraというのは西アフリカのマンディング地方に古くから伝わる楽器である。大きなヒョウタンを二つに割って、その断面に革を張り、竿を付け、通常は21本の弦を張る。イメージとしてはハープに近い。ジャケットの写真の様に、革の面を手前にして両手の指で弦を弾く。コラフォラは地元の言葉で「コラ弾きの名人」の意。
ちなみに、マンディング地方というのは、かつてのマリ王国が栄えた地を指す。現在の地理で言えばマリ共和国の南部とギニア共和国の北東部を中心にして、セネガル、ガンビア、コート・ジボワール、ブルキナ・ファソ、ガーナにまで及ぶ広汎な一帯である。今日でも文化的な結びつきは強い。
本アルバムでコラを弾くママドゥ・ジャバテも、マンディング地方の出身である。1975年マリ共和国生まれ。現在は主にニューヨークで活動しているが、代々続くグリオの家の出である。詳しいことは知らないが、西アフリカ関係の文献でジャバテという姓を一再ならず目にしたことがあるので、高名なグリオの家系なのかもしれない。
グリオ。楽器を演奏し物語を歌に乗せる語り部である。日本で言えば琵琶法師みたいなものだろうか。
身分の低い職業とされているが、その一方で、人々から尊敬され畏れられもする存在であった。文字を持たない社会にあって、彼らだけが歴史を知っているのだ。時には王家の秘密をも知っていたのだろう。一人のグリオは、まさしく一つの図書館にも相当する。単なる吟遊詩人ではないのだ。
さて、すっかり説明が長くなってしまったが、この【Behmanka】は、そんなママドゥ・ジャバテの2枚目、2003年のアルバムだ。
ニューヨークに移り住み、多くのミュージシャンとセッションを重ねる中で様々な音楽の影響を受けて進化した彼の感性が凝縮した素晴らしいソロアルバムである。
とにかく何が驚きかって、まずはコラという楽器の繊細な音色に驚かずにはいられない。フィンランドのカンテレkanteleにも似た澄み切った音。一体ヒョウタンのどこをどうすれば、こんなに綺麗な音が出るものなのか。聴けば聴くほど、見当もつかないのだ。
そして驚異的な技巧。二本の手でどうやって弾いているのだろうか。
もちろん、楽曲そのもの美しさは言うまでもない。マンディングのトラディショナルな音楽を聴いたことが無いので、どの程度にモダンポップの味付けがされているのか計りかねるが、そんな詮索が野暮に思えるほどに美しい。ただただ聞き惚れるばかりである。
オフィシャルサイトで試聴出来ます。どうぞ。
http://www.mamadoukora.com/pages/recordings.html
西洋音階でもなく中近東でもなく、何だかフシギに新鮮です。
それにしてもアフリカって、リズム楽器ばかりではないのですね。(あたりまえか!)
民族音楽探訪。あまりに広くてほとんど手つかずの状態なので、今年はアフリカでも攻めてみようかなあ。
恥ずかしながら、私も何となく「アフリカといえば太鼓」みたいなイメージを持っていました。その思い込みが崩れたのはママドゥ・ジャバテの一枚目を聴いた時です。あまりにも綺麗な旋律に心底驚きました。本当に不思議な新鮮さですよね。
このアルバムでは時々ユッスー・ンドゥールみたいなメロディが聴こえて来てドキッとします。たしかユッスーもグリオの出。まあ彼はウォロフ人でマリンケとは違いますが、地理的にも近いと言えば近いし、通じるところがあるのかも知れません。
コラは形は一見プリミティブなのに出てくる音が玄妙なのが意表をつかれますよね。わたしアイリッシュとコラの混じったバンドのライブフィルムをみて「うわ、かっこいい...。」って思ったのが最初の出会いです。
ヒョウタン(というかアフリカのは干瓢に近いような気がしますが。)楽器を駆使してると言えば我が国にはザ・ひょうたんフィルハーモニックという面白い集団がいます。(すでにご存じかも知れませんが...。)
http://www1.kcn.ne.jp/~omori/Hyophil/
わたしもヒョウタンで楽器作ってみようと庭にヒョウタンの種を植えたらなぜかゴーヤが実りました。なぜ?
gegenga道場で御一緒してますが、こちらでははじめましてですね。
ご紹介頂いたザ・ひょうたんフィルハーモニック、さっそく試聴してみました。これは面白いですね。バンブー・オーケストラも凄いと思いましたが、こちらも負けてません。瓢箪の音って、一筋縄では行かないっていうか、本当に多彩な表情があって奥が深そうです。ヨーロッパの古楽器みたいな中近東の香りにも惹かれました。
ところで
>なぜかゴーヤが実りました。なぜ?
それは・・・やっぱりゴーヤの種を植えたからじゃないでしょうか。