
He has the voice of an angel and can break your heart.
━━ Lou Reed ━━
音楽のジャンル分けなど下らないことだと常々思うが、こと「歌」に関しては、その思いを一層強くする。真に傑出した歌手というのは、まさに「歌手」として優れているであって、ジャズ歌手だとかロック歌手だとかいった区分けには何の意味も無い。Jimmy Scottもまた、そんな「歌手」の一人である。
ジミー・スコット翁。知る人ぞ知るジャズヴォーカル界の伝説的存在である。
1925年生まれ。生まれつきのホルモン異常によって、ある時期から身長が伸びず、声変わりも経験していないという特異な身体である。天使の声とも称される驚異的なハイテナーはその身体によるものだが、歌手としての正当な評価はなされぬまま、実に長い間ショービズ界では冷遇されて来た。彼のキャリアには20年以上に及ぶ「空白」が存在する。半ばジャズ史から消されかけていた彼を再評価する声が高まり、奇跡的な復活を遂げたのは、90年代に入ってからなのだ。Legendaryの語が冠される所以である。以降、多くのアルバムが出ているが、特に私が好きなのは、この一枚。1998年の作品である。
何といっても、ます選曲が渋い。普段はスタンダードなジャズナンバーを歌うことが多い彼だが、本作では70年代以降のクラシックロック、ジャズ界でいうところのニュースタンダードが中心になっている。アルバムタイトルの「Holding Back The Years」は、もちろんシンプリー・レッドSimply Redの名曲。他にも、ボーイ・ジョージBoy Georgeの歌った「The Crying Game」やJohn Lennonの「Jealous Guy」、Elvis Costelloの「Almost Blue」、Bryan Ferryの「Slave To Love」、Elton Johnの「Sorry Seems to be the Hardest Word」と、お好きな方にはタマラナイ珠玉のバラード集なのだ。
一曲一曲、その一語一句に至るまで全身全霊を込めて歌い上げる彼のパフォーマンスは、単なる「芸」の域を超え、一人の人間の希有な人生、その喜びや哀しみの刻印として、私たちの魂を激しく打つ。
嘘だと思ったら、例えばこれを聴いてみて欲しい。Jimmy Scott - Slave To Love
そして本アルバムの白眉は「Nothing Compares 2U」。プリンスPrinceの書いた曲である。私自身、プリンスにはほとんど興味が無いのだが、ジミー・スコットが歌うこの一枚のアルバムによって、作曲家プリンスの名前をいつまでも記憶し続けるだろう。それほどの名演なのだ。シニード・オコーナーSinéad O'Connorが歌って有名な曲であるが、もう何というか、まるっきりレベルが違うのだ。 決して悪くはないシニードの歌が、凡庸にさえ聴こえてしまう。
ジャズ好きな人にも、あまりジャズを聴かない人にも、間違いなくオススメな一枚。心震える名盤である。
ジャケットも良い。端整なペインティングはマーク・コスタビMark Kostabiの作。
このCDを聞いているところでした。
私、音楽にはくわしくもないし、
だいいち、原野の中では自然の調べの方が
心地よくて、音楽はうるさくて消してしまう方が
多いのですが、このアルバムだけは『別物』です。
特に今日のように
東京と北海道がぶっ壊れたつぎの日に聞くには
あまりにも・・・・・・です。
東京都民の皆様へのフォントは
もっともっと大きくてもいいです。
北海道民の皆様へというのも書かれそうですが・・・・
なんと、意外なところで繋がりましたね。
こんな日で無ければもっと良かったんですが、まあ、今後も宜しくお願いします。
さっそくゲットして聴いております。
すんばらしい! ご紹介、ありがとうございます!です。
深く酔っぱらった時にも、じっくり聴いてみたい一枚でございます。
ついでにこっちに書いたりしますが、Cocteau Twinsは「Milk & Kisses」もゲットし、こちらもかなり愉しんでおります。
非国民さんの音楽カテゴリーは、かなり楽しみにしておりますです。
お役に立てて何よりです。
それにしても、cocteau twinsとJimmy Scottを愉しみ、カクレキリシタンを面白がる人って、そうそういないと思うんですよね。つくづく奇遇です。
ちなみに「rilkean heart」はフェイ・ウォンが北京語で歌ってまして、これもなかなか。
http://www.youtube.com/watch?v=34kGpODYVuI