
中年を酔わせる、しみじみヒップホップ。
ヒップホップを馬鹿にするつもりは無いが・・・なんて綺麗ごとは言うまい。私は馬鹿にしている。少なくとも今どきの日本でヒップホップをやってる連中の大半は本物の馬鹿だ。
しかし何事にも例外はあり、凡百の劣化コピーが跋扈する和製ヒップホップ界にあって、Nujabesの放つ音は別格の輝きを帯びている。本作は二枚しか出ていない彼のオリジナルアルバムの二枚目。2005年の作品。
この音楽を何と呼ぶべきか、私には良く分からない。むろん広義のヒップホップではあるだろう。その筋の専門用語で「チルアウト」と言われるスタイルに近いのだが、和音とメロディをきっちり聴かせる彼の音づくりは、やはり異彩を放っている。実はジャズやソウルに近いのかもしれない。そもそも、既存のヒップホップ界とNujabesのリスナー層とは、ほとんど接点を持たないのではなかろうか。
多くの曲が元ネタありのサンプリングをベースにしている。アルバムの裏ジャケでもインナーでも元ネタは明記されていないが、そういうものらしい。半分くらいがインスト、残りの半分がヴォーカル(ラップ)入りだ。Nujabes本人は全く歌わず、曲ごとにラッパーがフューチャーされている。立ち位置としては、作曲家と言うよりは「トラックメーカー」なんだろうなあ。
非国民一番のお薦めは、Shing02のラップをフューチャーした「Luv (sic.) pt3」イヴァン・リンスの古い曲の、それもイントロだけをループさせたシンプルなトラックが、何度聴いても美しい。元ネタのマニアック加減もさることながら、しみじみと漂う乾いた締念のような叙情が、中年男を酩酊させる。
巨勢典子のピアノをフューチャーした「reflection eternal」も良い。これまた使っているのは元ネタ(巨勢のオリジナル曲)のイントロ部分だけ。単純なようで細かいところまで丁寧に作り込まれたトラックだと思う。ピアノの音が本当に綺麗に綺麗に録られている。
一方で「music in mine」なんかは、まるっきりのジャズナンバーだ。このあざとさはニコラ・コンテなみ。妙に下品なサックスの音は、おそらくUyama Hirotoだろう。
このアルバムを出しているのは、Nujabes自身が主宰しているHyde Out Productionsというインディーズのレーベルで、いわゆるプロモーションということを一切しないことでも知られている。売る気があるのか無いのか、とにかく必要な人にだけ届けばそれで良いらしい。私自身も、彼の存在を知ったのはyoutubeを彷徨っている時に偶然引っ掛かったせいである。こういうことがあるから辺境巡りは止められない。
まあこの人のCDは新宿のタワレコで言うと、8Fじゃなくて9Fに置いてありそうな雰囲気ですね。
言い得て妙ですね。同感です。しかし世の中分からないもので、私の知人には、これ
http://www.youtube.com/watch?v=ira3LoZiTWc
がキッカケでジャズを聴き始めたという人もいます。このあたりの際どい接点、意外に侮れないのかも知れません。
でもこれが同時代の新譜だったら、やっぱり私もバカにすると思います。