
女王フェルナンダの華麗なる疾走
押しも押されもせぬブラジリアン・ファンクの女王、フェルナンダ・アブレウ。1961年リオ生まれ。本作は20世紀も押し詰まった2000年に出た4枚目のアルバムである。
ブラジリアン・ファンクとは言っても、それはただ単にブラジルのファンクというだけではない独自の存在である。むしろサンバ・ファンクとでも呼んだ方が実態に近いだろうか。ちなみに当地の言葉では<女王>のスタイルをファンキ・カリオカfunk cariocaと称している。読んで字のごとくリオデジャネイロを中心に発達したその音楽は、北米ファンクの系譜を継承しつつも、同時にブラジルの黒人文化が直接のベースになっている。
アルバムタイトルにUrbanaとあるが、盂蘭盆とは関係無い。英語にすると【Urban Entity】だ。都市の実像とでも言うべきその理念は、アルバムジャケットにも体現されている。ちぐはぐに色んな衣装をモンタージュして繋ぎあわせたジャケットの写真は、実は壮大な連作のうちの一枚に過ぎない。裏ジャケやインナーには、パンキッシュな革ジャンからオリエンタルなドレスまで、現代の都市を表象する様々な服をこれでもかと着せ替えまくり髪型も変えまくった彼女の肖像が何と48枚も載っている。表ジャケの一枚はそのモンタージュの一例であり、他に5つのバージョンのモンタージュが載せられている。言うまでもなく、その全てが等しく彼女の<実像>なのであり、すなわち数え切れないほどの文化的要素から構成される<Entidade Urbana>なのである。使われている写真は全て本人のオフィシャルサイトで見ることが出来るが、かなり重いので興味のある方は覚悟の上でどうぞ(home→discografia→ジャケットで本アルバムを選ぶ→Projeto Gráfico、あるいはMaterial de Divulgação)。だいたいブラジルのウェブサイトはむやみに重い。何故だ? 誰か教えてくれ。ちなみにmanipulação de imagensとしてクレジットされているのはVictor Hugo Cecatto。一つ一つを見ればさして奇抜でもない服を貼り合わせて近未来的なサイバー感を醸し出す手腕はさすが。
もちろん音楽的な内容も素晴らしい。R&Bからクラブミュージックへと到る20世紀ポップスがサウダージ感たっぷりに昇華されている。懐かしき往年のディスコサウンドを彷彿とさせる曲もあり、緩急自在に疾走する様は、そんじょそこらの小娘には出せない<女王>ならではの官能性すら帯びている。
私のお気に入りはDoc Gynécoの「Caranel」と一緒にPutumayoのコンピレーションにも収められている4曲目の「Eu Quero Sol」。ちょっとラップ風の部分があったりして、やはりブラジルのラップはブラジルの香りがする。考えてみれば当たり前なんだけど、ちょっと不思議。ゴリゴリのヒップホップが苦手な私は、このぐらいの匙加減が気持ち良い。
<女王>の本領を発揮しているのは、やはりラップをベースにした2曲目の「Baile da Pesada」。Monoblocoとの共演は、まさしくサンバ・ファンク。アルバム収録バージョンでは、洗練されたエレクトリックなアレンジが施されている中でカバキーニョのカッティングが渋く光っている。
そしてアルバムのラストは、しっとり甘々の「Paisagem de Amor」。この余韻も本当に良い。
20世紀の終わりに出たこの一枚。今から聴いても決して遅くはない。
うけました。
ちなみにフェルナンダ女王も同じカリオカとしてジョルジ・ベンには格別の敬意があるようでこんな曲をカヴァーしてます。
http://www.youtube.com/watch?v=adg4FC6tWT0
カエターノ・ヴェローソの“持ち歌”でもあるこの曲に敢えて手を出すところが、いかにも<女王>。
おっと、もちろん曲は素晴らしいです。で、やっぱコレに尽きるでしょう。
http://www.youtube.com/watch?v=eMYPOgJYODQ
http://www.youtube.com/watch?v=WWfw6dhU8JY
カッパドキアの聖ジョルジはリオデジャネイロの守護聖人で、聖ジョルジの日はリオの休日にもなっているそうです。