
バリサクとウイスキーの夜は更けて
言わずと知れたジェリー・マリガンの名盤。1963年の録音だから、もう半世紀近く前のアルバムということになる。まあ、たまには古いのも良いだろう。
昔からバリトンサックスの音が好きで、時々このアルバムを引っ張り出して聴くのだが、聴き始めると途端にバリサクはどうでもよくなって、セクステットの妙に痺れてしまう。そもそも一曲目のタイトルナンバーでマリガンはバリサクではなくピアノを弾いているのだ。でも、これが良いんだなあ。半世紀の時を全く感じさせず、すっと引き込んでくれる美しさだ。
http://www.youtube.com/watch?v=hu3qzzCCfCE
サイドメンも良い。何と言ってもアート・ファーマーのフリューゲルホーン。程よく力の抜けた音色が柔らかく美旋律を醸す。ボブ・ブルックメイヤーのトロンボーンも素晴らしい。そして、名手ジム・ホールのスモーキーなギターがアンサンブル全体のくすんだトーンを味わい深いものにしている。
よくもまあ、これだけ「はっきりしない」音色のメンバーで固めたものだと思う。揃いも揃って「主張しない」面々が居並び、果たしてこれをジャズと呼んで良いのかと迷うほどに、その輪郭は曖昧としている。でも、その徹底した「はっきりしなさ」加減が、心の奥底までリラックス出来る至福の時間に繋がっているのだ。さすがに素面で過ごすには勿体ない時間だ。勿論、ワインでもビールでもなく、ここはウイスキー。それもバーボンではなくスコッチで行きたいところ。
不思議なもので、はっきりしない甘々ジャズは酒の趣向すら変えてしまうようだ。普段の私なら「上品過ぎて物足りない」と感じる、例えばマッカランなんかが、本当に美味しく感じられる。輪郭の曖昧な音に包まれることで、返って喉の神経が研ぎ澄まされて、いつもは気付かないモルトの繊細な香りに酔わせてくれるのかも知れない。
ではラストナンバーの「Tell me when」でもう一杯。
http://www.youtube.com/watch?v=pftBMhyEKzg
今度はトミントールのオロロソ・シェリー・カスク・フィニッシュで更なる至福を。
そもそも朝限定の音楽は私には無縁なのですが。