2011年06月16日

Emanuel Ax & Pablo Ziegler【Los Tangueros】

los_tangueros.jpg
2台のピアノが絡み合う。
 
ピアノ2台だけによる、ピアソラ曲集である。96年のアルバム。

アストル・ピアソラの死後しばらくして、ピアソラの曲を演奏したアルバムがやたらに出た時期がある。まるで雨後の筍のような、それは一過性のブームでり、残念ながらそのほとんどは凡作、あるいは駄作であった。私の知る数少ない例外はギドン・クレーメルのアルバム。あるいは小曽根真とゲイリー・バートンのデュオによる「Laura's Dream」。そして本作である。

まず一人目は、本アルバムでは編曲も担当しているパブロ・シーグレル。後期ピアソラ五重奏団のピアニストとして活躍した人である。ピアソラの音楽にジャズのエッセンスが持ち込まれたのは、もっぱら彼のセンスに依るところが大きい。もともとはポップスや映画音楽の分野での活動が中心で、ピアソラの五重奏団に参加する以前は、ほとんどタンゴに興味を持っていなかったというから驚く。五重奏団時代における、例えばこの「Libertango」の鬼気迫るピアノを聴くと、彼にはタンゴの魔物が取り憑いているとしか思えないのだが。
http://www.youtube.com/watch?v=Dw9tD3X4xLs

もう一人はエマニュエル・アックス。こちらはまるっきりクラシック畑の人で、もちろんこれまでタンゴを弾いたことはない。しかし、このレコーディングに際して全身全霊でタンゴを探求したであろうと思わせる素晴らしい演奏だ。

かくして、アルバム通り二人のタンゲーロ(タンゴ人)が濃密に絡み合う傑作が残された。育ちの違う二人のピアニストが火花を散らし合う中に、ピアソラ・タンゴに特有のねっとりしたリズム感が生きている。

もともとタンゴは都会の、それも室内の音楽として生まれたもので、ピアノの音がよく似合う。ティピカルな演奏形態でもピアノの存在は欠かせない。それでも2台のピアノ「だけ」という新鮮さは、どこまでもスリリングだ。

アルバムの最後は「Tangata」。
http://www.youtube.com/watch?v=AvTDPNVNrfg
まさに名曲の名演である。
posted by 非国民 at 10:33| Comment(10) | TrackBack(0) | 音楽;中南米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ここは非国民さん(本物)のブログですよね。

>もともとタンゴは都会の、それも室内の音楽として生まれたもので、ピアノの音がよく似合う。

 へー。なーるほど。単音というか打撃音というか、短くて消える音のほうがリズムがわかりやすいからかな。
 ハンドベルやグラスハープで演奏するタンゴなんてあるかしらん。
 あと、一つの音符の長さ、それも物理的な持続時間として、どれぐらいまでなら、人はリズムとして認識するのか、って、今ふと疑問に思ったんですけど。
 つまりタン、タン タン タタ とリズムを刻んでも、それが超スローテンポで、拍と拍の間が2秒ぐらいあいていたら、リズムとして「ゲシタルト」になるかなあ、と思ったり……。
Posted by kuroneko at 2011年06月17日 15:57
 こんばんは。ご無沙汰しております。先日はかまっていただき有難うございました。
 お変わりありませんか。
 小生も、先ほどやきとり様の所をおとずれたところ、こちらに飛ばされてしまい狼狽しました。もっともサイドカラムのカテゴリーにロッテとあったので、小生もやきとり様のパロディだとさすがに気付きましたが。
 非国民様とやきとり様の篤い友情に胸が熱くなりましたYO.
 またお会いし、様々な面白いお話を賜る機会を千秋の思いでお待ちしておりまする。
 では
Posted by L at 2011年06月17日 18:37
 なるほど、ピアソラさんの曲と言うのは、手がけてみたくなるものなのですね。51分40秒ぐらい。
「悪魔のロマンス」
http://www.sakasou.co.jp/radio/files/radio05.asx
Posted by L at 2011年06月17日 20:14
老師
基本的に打楽器の入らない編成なので、ピアノやバンドネオンに「歯切れの良さ」を求めるところはあるでしょうね。
リズムの把握はスピード(テンポ)よりも、繰り返されるパターンを認識出来るかどうか、がポイントじゃないでしょうか。

Lさま
いつぞやは、どうも。
偽ページには私も眼を疑いました。PCが壊れたか、seesaaが壊れたか、はたまた俺が壊れたかと悩みましたが、しかしあれは<友情>なのか?
今度は私もロッテの話を書いてみよう。
Posted by 非国民(本物) at 2011年06月17日 22:46
では近々QVCマリンフィールドで昼間っからイッパイやりましょう!

それはともかく、うちにピアソラのCDあったけなあと探してみたら『ピアソラ・オリジナル・サントラ集』というオムニバスが出てきました。ピアソラっていまいちピンと来なかったのですが、聴き直してみたらこれが悪くない。

個人的には曲うんぬんより、音色が素晴らしいと思いました。ちょっと聽くとマネし易いようで、実は誰にもマネできない圧倒的な個性と存在感とでも言いましょうか。アルゼンチンつながりで、私も音楽話を書いてみましたよ。

http://ch10670.seesaa.net/article/210935131.html
Posted by ニセ非国民 at 2011年06月20日 23:53
ユニゾンの使い方が実に巧みだと思います。例えば五重奏団なら、ピアノとベースのユニゾン、ギターとピアノのユニゾン、バンドネオンとバイオリンのユニゾンなんかが多用されていて、その音色には5人だけの演奏とは思えない幅があります。
各々の楽器を叩くパーカッシブな音もよく出てきますね。彼がバンドネオンを叩く「っこん。」という音が本当に良いです。ここぞ、という時にこれが決まると、何と言いますか、空間が締まるんですよね。
Posted by 非国民 at 2011年06月22日 13:24
バンドネオンというとこういう音楽もありますが、教養人たる非国民さんややきとりさんにおかれましては、どのように聞かれるでしょうか??

http://www.youtube.com/watch?v=lcj_N2QQcAg
Posted by 黒木 at 2011年06月23日 06:28
良い歌ですね。セヴダ(ボスニアの古謡)に近い雰囲気を感じました。
Posted by 非国民 at 2011年06月23日 18:07
おぉ、気に入って頂けましたか? 今度、彼らが来日するときは是非紹介しますので、是非、ライブ会場まで足をお運びください。

それはそうと、Benoit Moerlenも来日します:
http://d.hatena.ne.jp/Poseidon/20110608/
Posted by 黒木 at 2011年06月23日 20:52
>Benoit Moerlen

ホールズワース目当てで買ったゴングの「ガズーズ!」を持ってます。ミニマルかつメカニカルなヴァイブを叩いてる人でしたっけ? 帰ったら聴き返してみます。
Posted by やきとり at 2011年06月25日 12:55
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