
浪曲師、海を渡るの段。
浪曲師国本武春による、なんとブルーグラスのアルバムなのだ。
ジャケットの記載では「Appalachian Shamisen / The Last Frontier Featuring Takeharu Kunimoto」となっているが、実質的には国本武春のリーダーアルバムである。文化交流使として一年間イーストテネシー州立大学に派遣された国本が現地の学生たちを集めて組んだバンド、The Last Frontierによる2004年のアルバム。これ以降にも二枚のアルバムが出ているで、本作のための臨時バンドというわけでも無さそうだ。
メンバーは国本の三味線の他に、ギター、ベース、マンドリン、バンジョーの5人。ベースのみOBで、他の3人は学生だが、いずれも相当な腕利きだ。この他にゲストとしてフィドル(ヴァイオリン)が1人参加していて、こちらは教授。どうやら、このアルバムそのものがイーストテネシー州立大学(ETSU)Bluegrass,Old Time and Country Music Programの一環でもあるらしい。
弦楽器好きには天国のような編成だが、これはブルーグラスの典型的なスタイルである。屋外の音楽として発祥したブルーグラスは、ピアノもドラムも入れずに、「全員が立って演奏する」ことを旨とする。
いかにも怪しげな企画だが、これが真っ当なブルーグラスになっているから驚く。ブルーグラスを全く知らない人がこのアルバム一枚を聴いて「ブルーグラスとはこういう音楽なのか」と思っても、さほど間違いではない筈だ。この記事を書くために調べて私も初めて知ったのだが、国本武春は中学生の頃からブルーグラスに親しんでいたそうで、最初に触った楽器は三味線ではなくマンドリンだという。
アルバムタイトルの一曲目からして凄い。
http://www.youtube.com/watch?v=3Awb5feOimU
あまりの馴染み具合に、東アジアの古くさい楽器が、バンジョーの従兄弟のように思えてくる。まるで最初からブルーグラスのための楽器であるかのようだ。
とはいっても、単なるトラディショナルなブルーグラスに終始しているだけではない。所々に斬新なアプローチも見られる。
「Pray For Asai」では浪曲師国本ならではの<唸り>が素晴らしい。
http://www.youtube.com/watch?v=QPqwqSbEKYU
国本による日本語のヴォーカルが入るのはこれ一曲だけで、他のヴォーカルものは学生が歌っている。メンバーによるオリジナルの他に、ビル・モンローなどのスタンダードも取り上げられていて、アルバム全体ではヴォーカル入りとインストが半々くらい。これもブルーグラスのオーソドックスなスタイルと言って良いだろう。
海を渡った浪曲師による、これは希有な探求の記録である。そもそもが国本武春は並の浪曲師ではない。「三味線ロック」の祖であり、さらには超一流のブルースマンでもある。浪曲もロックもブルースも、つまるところ、そのハートは一緒なんだよと彼は言う。
「こころよ」が大好きだったんですけど、youtubeからは軒並み削除されておりますね。(泣)
バディ・ガイ、クリス・デュアーテとのブルースセッションもかっこいいですよー!
http://youtu.be/SucFwzpRp0I
バディ・ガイとのセッション、痺れますね。フレットレスならではの絶妙なブルーノートの繰り出し方に、卓越したセンスが光ってます。