2011年10月27日

謎の信仰とその資金源

温泉そのものには魅力を感じないが、温泉に対する日本人の執念には興味があって、あれこれ調べているうちに「そういえばラジウム温泉とかラドン温泉とかいうのがあったなあ」と思い出した。

放射線の害が広く知られるようになった昨今、さすがにもう流行らないだろうと思いきや、意外なことに今でもあるようだ。

常識的に考えて、世の中に「身体に悪い放射線」と「身体に良い放射線」が存在するとは思えない。いくら温泉に由来するとはいえ、放射線は放射線なのだから身体に良い筈は無いと考えるのが妥当である。

ところが、ちょっと検索してみると「ラジウム温泉が健康に良いくらいだから、少々の放射線は平気だ」という、まことにもって本末転倒した議論が展開されていたりして目を疑う。私には理解し難い謎の信仰だ。

それどころか「微量の放射線は却って身体に良い」なんて主張すらあったりする。専門用語(?)で「放射線ホルミシス説」というのだそうだが、これがまた、いかにも怪しい。「説」そのものの怪しさはもちろんだが、それを主張しているサイトが、実に怪しい。

例えば「ラドン温泉は健康にいいの」という記事。「放射線と健康を考える会」という看板は、一見したところ学術団体ぽいが、<iips.co.jp>で検索すると、このページそのものが「国際広報企画」なる民間企業のサイトに置かれていることが分かる。どんな会社かと概要を見れば、クライアントには電力会社と原子力企業がずらりと並んでいる。実に分かりやすい怪しさだ。

あるいは「温泉から放射線」という記事。温泉宿の宣伝記事かと思えば、こちらは関西原子力懇談会のページ。会長は関西電力の副社長である。これまた分かりやすい怪しさだ。

もっと凄いのになると、「安全安心科学アカデミー」なんてのもあって、こちらは原子力発電、特にプルサーマルを推進するにあたって住民を安心させるための広報機関として設立されたことを隠してもいない。

日本で最も熱心に放射線ホルミシスを研究しているのは、おそらく電力中央研究所であろう。これは言うまでもなく電力会社による電力会社のための研究機関だ。

疑似科学の根絶が難しいとかいう話の以前に、電力会社がどれほど広汎に金をばら撒いているかを垣間見て、改めて驚く。それもこれも、全てコストとして電気料金に上乗せされているかと思えば、腹立ちもなお一層。

さらに調べると「ラドン開発事業団」だの「ホルミシス臨床研究会」だのといった団体まで出てきて、この辺になると、もはや怪しいどころか、ほとんど「トンデモ」の領域である。

ラドン温泉関係者には誠に気の毒であるが、残念ながら「放射線ホルミシス説」の主張には科学的なエビデンスが全く無い。まともな研究者が相手にしていないのも当然かと思われる。
posted by 非国民 at 21:20| Comment(8) | TrackBack(0) | 毒物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 こんばんは。
 ホルミシスといえば、岩波新書で放射線の影響について書いてある奴があったのですが、好意的に紹介されていて「金と時間を返せ!」と思ったことを思い出します。今をときめく児玉龍夫東大教授は、「細胞が活性化するというけど、それは癌化しつつあるということだよね」といっておりました。ネズミなどの動物実験では、人よりも寿命が短いので、癌になる前に、活性化状態と称する前癌状態の内に死んでしまうということらしいですな。
 理科教育の第一人者である左巻建男法大教授も、原発推進を後方支援・援護射撃する「ICRPでさえ、採用できないトンデモ「思想」」だと言っておりました。そういえば、「某御用学者が群馬で、「皆さんはついていない。ホルミシス効果が現れるには放射能がすくなすぎる。福島最高。大熊町、双葉町の人は幸せ。」とほざいたと言うお話も紹介していました。
 学生の時に、特別講義で伺った放医研の先生のお話では、どんなに少なくても小さくはなるけど悪影響はあると言っていましたけどね。
 ただ、件の岩波新書には、「ラドン温泉と言っても調べてみるとほとんど放射能が含まれていないところばかり」だそうです。もっとも、左巻建男法大教授によると、増富温泉(源泉)は、結構濃いようですが。そうそう、個人輸入でラジウム入りの鉱石が買えるそうで、恐ろしいことに高放射能ほど高いそうです。昔、人形峠周辺にウラン鉱石が大量に捨てられており、それを地元の人が拾ってきて健康に良かろうと風呂桶に入れていたそうです。
Posted by L at 2011年10月28日 18:59
放射線による遺伝子の損傷が、細胞の異常として顕在化するかどうかは、あくまでも確率的にしか言えない訳で、線量が少なければ少ないほど、その確率は確かに低くなりますが、決してゼロにはならないと考えるのが妥当でしょう。

ところで、ふと疑問に思ったのですが、強い放射線とか弱い放射線とかいう表現は、どういった意味で使われているのでしょうか。単なる粒子の総数の違いなのか、あるいは、放射線の種類自体の違いを指しているのか。私の専門である可視光の場合には明らかに前者で、「強い光を当てる」と言うときの「強い光」は、決して「波長の短い光」を意味しないのですが、どうなんでしょう。その辺の混乱もホルミシス信仰を助長しているような気がします。
Posted by 非国民 at 2011年10月28日 21:14
学生時代、(私と違って)非国民さんは随分と怪しい人だなぁ、さすが千葉の県立高出身者は違うなぁ、と感心していましたが、大人の怪しさは桁が違いますね。

所詮、若気の至りというヤツでした。大人の世の中は恐いですなぁ。

Posted by 黒木 at 2011年10月30日 20:58
何か千葉県に特別な恨みでも?
Posted by 非国民 at 2011年11月01日 03:37
 光の強い弱いが照度で比較されるように、放射線の強い弱いは、一般には、Svの多寡なんじゃないですかね?

 でも、光が波長によってエネルギーの大きさが違うように、放射線も同じ電磁波なんで、エネルギーの大きさの違いがあるようですね。ネットワークで作る放射能地図という番組で、老科学者が車を走らせながら自作の機械で放射能を調べるシーンが出てきます。そのとき、放射線のスペクトルが表示され、このピークはセシウムなんちゃらですねとか言うのですが、あのスペクトルの横軸(画面では縦ですがw)は、エネルギーを表す電子ボルトらしいです。つまり、核種によって放つ放射線のスペクトルが、エネルギーが違うようで。
 放射線や放射能を計る単位は種類が多くややこしいし、僕らが学生だったときとも変わっていますから、ある種の人たちはホルミシスなどの与太話に一層ひっかかりやすいだろうと思います。
Posted by L at 2011年12月01日 20:31
私の同世代で見事に騙されている実例に先日遭遇し、改めて驚いています。
例えば紫外線を皮膚に浴びるのもメリットとデメリットが在るわけですが、だからといって身体に良い紫外線と身体に悪い紫外線が在るわけではないでしょう。そもそもα線やβ線を浴びるメリットって、何かあるのでしょうか。
Posted by 非国民@大阪 at 2011年12月02日 00:19
 小生もちゃんとは知らないのですが、紫外線も波長による作用の差があるようですね。
http://ja.wikipedia.org/wiki/紫外線
>一般に、波長の長いUVAは危険性が最も小さいが、皮膚の加齢、DNAへのダメージ、皮膚がんへのリスクは0ではない。UVAは、日焼けを引き起こすことはないが、UVBより深く皮膚の中に浸透
>UVB、UVCは、皮膚がん発現のリスクを伴う
>強度の強いUVBは目に対して危険で、雪眼炎(雪目、雪眼)や紫外眼炎(電気性眼炎)、白内障、翼状片と瞼裂斑形成になる可能性がある。
>紫外線による利点は、皮膚におけるビタミンDの生成である。グラント(2002)は、UVB照射時間が短いことが、ビタミンDの欠乏を起こし、アメリカで何万もの死者が生じていると主張している。

 でも、いずれにせよ、悪影響が0でないのは当然で、天使の紫外線と悪魔の紫外線があるわけはないです。
 >そもそもα線やβ線を浴びるメリットって、何かあるのでしょうか。
 多分、ないでしょう。一応、ほとんどのどうでも良い変異やわずかな有害な変異と引き換えに極めてまれに進化をもたらす、と言うことなんでしょうけど。でも、こうした放射線を放つ放射能はほとんど存在しないし、α線やβ線はほとんど飛ばないし簡単に遮蔽されてしまうので、内部被曝以外ではまず影響がないでしょうし、その機会もわずかでしょうね。ただ、それなりの量の内部被曝の折にはえぐい悪影響が出ると児玉教授が説明してくれました。

>masaru_kaneko 金子勝
昨日行われた立教大学でのシンポジウムです。児玉龍彦氏、吉岡斉氏そして私が報告をしたセッション1のビデオです。 goo.gl/hx9Mb セッション2は goo.gl/Cc7tx セッション3は以下です。 goo.gl/PnS4V
11月27日
Posted by L at 2011年12月02日 01:13
UVも波長によって性質が違うというのは、確かにその通りですね。同じ波長のUVでも、身体への影響にはメリットとデメリットがあって、浴びすぎた結果としてデメリットがメリットを上回るということはあるでしょう。この場合は「光量」の問題とも言えます。可視光でも紫外線でも放射線でも、光の持つエネルギーは「光量(線量)×周波数×プランク定数」ですから。

しかしながら放射線が遺伝子を損傷するというのは、線量すなわち粒子の数の問題ではなく、たった一つの粒子が遺伝子を損傷するに足るエネルギーを持っているわけです。遺伝子が損傷される確率は、要するに粒子が遺伝子にぶつかる確率と考えられますから、いくら粒子の数が少なくてもその確率はゼロにはならないんですね。

むろん、その結果起こった遺伝子の変異によって生物の進化がもたらされたということはありますが、それを「身体に良い」と表現するのは牽強付会に過ぎるかと思います。
Posted by 非国民@大阪 at 2011年12月02日 03:42
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