
アラブのバンドはキーボードが微分音に走りがちの法則
ナザレのバンドGhazall / غزل 。意味は「糸」。アラブ人は
このGhazall、2016年の結成だから、割と新しいバンドだ。女性ヴォーカルに、Gt、Ba、Key兼時々ヴォーカル、Drの5人組。アラブ圏で女性ヴォーカルのバンドは非常に珍しい。拠点とするナザレはイスラエル北部の都市。住人のほとんどがパレスチナ人で、そのうちの3割ぐらいがキリスト教徒だ(*1)。イスラエルにおけるアラブコミュニティの「首都」みたいな位置にある。
翌2017年に「A Tareeq / On the Way / ألبوم ع الطريق 」という8曲入りのアルバムを出している。レゲエ寄りの緩いロック+ブルースが一曲という感じで、これもなかなか味わい深い一枚だ。アラビックな印象は薄く、よく聴けば所々でアラブの香りを感じる程度。クレジットを見ると、ほぼ全員が作詞をし、作曲は全てGhazall名義になっているので、しっかりとバンドしている。
そう来たところで、2018年に出たこのシングル「Ashkara / أشكرى 」が色々とぶっ飛んでいて凄まじい。PVもぶっ飛んでいる。眼が回るという人、眼が冴えるという人、両方いようかと推察するが、いずれにしても只事ではない熱量だ。
アルバムでもドラムのセンスが(良い意味で)独特だなあと思ったが、このPVを見て改めて驚く。何だこのドラムのかっこよさは。異常だぞ。そもそもグリップがジャズ屋だし。
そして、アルバムでは上品だったキーボードが突如として暴走している。何かに目覚めたのか、何かを悟ったのか、何かを諦めたのか、本領を発揮したのか。もはや香りとかいうレベルの話ではない。一人で濃厚なアラブ味を撒き散らしている。
上品とは言い難いその力技に痺れつつも、全体として「踊れる音楽はこうじゃなくちゃ」のツボを的確に攻めるアンサンブルの妙が、これまた何とも不思議。極上の一曲ここにあり。
*1 20世紀の半ばまではキリスト教徒の街だった。ナザレのイエスという呼称の示す通りキリスト生誕の地でもある。