2020年08月11日

アラブの女性ミュージシャン

アラブ圏で女性ヴォーカルのバンドは非常に珍しいという話を何度か書いた(こことかこことか)。

バンドがどうの以前に、アラブ圏では女性のミュージシャン自体が少ないという印象がある。もちろんアラブ圏といっても一様ではないし、そもそもがべらぼうに広い。地域ごとの「土地柄」も随分と違う。以下、個人の感想を漫然と書こうと思う。

まず突出して多いのがチュニジア。アラブ人といっても、北アフリカに関しては、もともとそこに住んでいた人々がアラビア語を話すようになった結果としてアラブ人と呼ばれているのであって、住民自体が入れ替わったわけではない。そんな中でもチュニジアは昔から女性ミュージシャンが多い。世俗的な共和制国家で女性の社会的地位が高いことも影響しているのだろう。音楽シーンの特徴としては、比較的ジャズ感が強い。

モロッコやアルジェリアの女性ミュージシャンは、そもそも少なく、しかも割とすぐにヨーロッパに拠点を移してしまう。

エジプトも結構多い。とはいえ、そもそもエジプトは人口が一億を超える大国で音楽シーンそものものが巨大だ。比率としては圧倒的に男性ミュージシャンが多い。あと、漠然とした印象だが、エジプトの女性ミュージシャンはアラブ歌謡の「歌手」という感じの人が多いように思う。日本で言えば八代亜紀とか松田聖子みたいなジャンルだ。歌詞が分からないと、どの曲も一緒に聴こえる。

そして、エジプトには素性の分からないバンドが多い。怪しいといういう意味ではなく、国内の音楽市場が十分に大きいため、積極的に非アラビア語圏に発信しようという動機が薄いのかもしれない。

エジプトで特筆すべきこととしては、ヒップホップ系の女性ミュージシャンがクラブシーンで活躍していること。これはアラブ圏では珍しい。湾岸の首長国などはヒップホップ自体を忌み嫌っている。

レバノンも女性ミュージシャンが多い。この地域に一つはキリスト教徒の国が必要だと考えたフランスが、そうなるように国境線を引いたのが国の発祥だ。国内に割拠するどの勢力も中央政府が強い力を持つことを望んでいないという複雑な状況下とはいえ、ここも世俗的な共和制国家で女性の社会的地位は比較的高い。今の内閣はベイルート大爆発の余波で総辞職だそうだが、閣僚20人のうち5人が女性だ。

レバノンにも「歌手」というカテゴリーの人は多い。全体的な印象として、エジプトの音楽シーンがブリティッシュな趣なのに対して、レバノンの場合はフレンチポップス風味が強い。

ちなみにレバノンには、おそらくアラブ圏で唯一と思えるカミングアウトしたゲイがヴォーカルというバンドがある。皮肉なことに、キリスト教指導者とイスラム教指導者の両方から激しく攻撃されている。

人口比で考えればチュニジアに匹敵するぐらいに女性ミュージシャンが多いのが、イスラエル領を含むパレスチナ。シンガーソングライターもバンドも多いし、クラブシーンでも女性の活躍は目立つ。Al Qawsの活動に見られるようなリベラルな気質もあるだろうが、何より国外に向けての発信に力を入れているせいで極東の非国民の耳に入ってくる機会が多いのだろう。

ヨルダンはロックな国だ。ここではスーフィーでさえハードロック化する。ロックバンドはとても多いが、女性ミュージシャンは非常に少ない。

シリアとイラクには、音楽シーン自体が存在しない。

サウジアラビアの女性ミュージシャンは、ほぼ皆無だ。基本的に女性が外で歌うことは許されていない。それでも、ここ数年で状況が変わりつつある、という噂は聞く。そんなサウジでも何年か前までジッダで女性だけのロックバンドが活動していた。facebookやyoutubeが止まっているだけで本当は今でも活動しているのかも知れないが、とにかくこのバンドThe Accoladeがそれはそれはロックで、知らない人に聴かせてアメリカのバンドだと言えば10人中10人が信じるだろう。
 
posted by 非国民 at 16:31| Comment(0) | 歴史と文化 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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