何日か前にハチに刺された話を書いた。人間の記憶というのは不思議なもので、勢いで他にも色々と思い出した。私はネズミに噛まれたことがある。これも子供の頃だ。
自慢できるような話ではないので、人に話したことは殆どない。それでも、何度かは話す機会があったかと思う。しかし「俺もある」という人には会ったことがない。何故だ?
ネズミといっても、私を噛んだのは鼠色の彼奴らではない。茶色の野ネズミである。家の近所の森というほどでもない林みたいなところ。畑もまあまあ近かったか。そこで見つけた野ネズミを、何を考えたんだろうか私は、おそらく捕まえてしばらく遊ぼうとでも思ったのだろうが、出した手を本気で噛まれた。
「窮鼠猫を噛む」という言葉はあるが「窮鼠人を噛む」とは言わない。
余程のことがなければネズミがネコを噛むことはないから諺にもなるだろうに、私はもっと余程のことをしでかしたわけだ。当人としては「お、珍しい」ぐらいのつもりだったのだろうが、それほどまでに追い詰めていたことになる。子供は馬鹿だ。
残念なことに、噛まれた痛みがどの程度だったかを全く覚えていない。「ネズミに噛まれた」と話した時の女親の激怒が尋常ではなく、そのことばかりが鮮烈に記憶に残っている。それは怒りというよりむしろ嘆きに近かった。「どうしてこの子はこんなに馬鹿なのか」という嘆きだ。「くぬフラーが」ぐらいの言われようだった気がする。「野ネズミには病原菌がいる」とも言われ、私は「そうなのか」と感心していた。
2020年09月04日
この記事へのコメント
コメントを書く