
ジャズ歌謡のハードボイル度
ジャケットのセンスが謎だ。謎すぎる。LPの時代だったら絶対に買わなかったと思う。ただでさえ私はジャズヴォーカルへの興味が希薄なのだから。
私はジャズが好きだ。そして、ジャズが好きな人間はジャズヴォーカルには興味が薄いのだ。
ところが、ネット時代の因縁でうっかり引っかかってしまったこの一枚が、すごく良い。ポーランドのジャズヴォーカリストBeata Przybytekの、ぐぐっとポップス寄りに傾いた2012年のアルバム。16曲も入ってハズレ曲が無いというお得な一枚だ。
お得なのは結構だが名前はどう読むのか。当辺境ブログ恒例の「名前が読めない問題」である。そもそも異人の名前は読むのが難しいのだが、なかでもポーランド人は難易度が高い。強いてカナ表記すればベアタ・プジベイテクだろうか。実際の発音はプシベイテクあるいはプシュベイテクに近い。
音大のジャズ科を出て、そこで教えてもいたというジャズヴォーカリスト兼ピアニストだが、本アルバムではピアノは弾いていない。以前は正調ジャズのアルバムも出しているし、一方で全曲スティーヴィー・ワンダーのカヴァーというアルバムもあったりと、なかなか曲者である。ポーランド語で歌うこともあるが本作は全曲英語。全てBeata本人の作曲によるオリジナルだ。作詞はあまりやらないようで、別人名義が多い。
ポップス寄りとは言っても、基調はジャズだ。イケイケ風から、硬派ジャズ、しっとりスローボサまで曲調は幅広いが、全て本人の作曲なので、とっちらかった感じがなく、16曲を気持ち良く通して聞ける。飽きないし疲れない。そして、全曲に参加しているBoguslaw Kaczmarのピアノが、まるで通奏低音のように、いわく言いがたいハードボイルド感を出している。それはもう、あざとい位に。
1曲目のイントロからして既にあざとい。
Beata Przybytek - KIND OF FUNNY
あっさり目のアコギから入って、一気にハードボイルドなピアノが絡む。もうこの瞬間にゾクゾクする。と、書いていて思ったが、このピアノにハードボイルドを感じるのはどこまで普遍的なのだろう? もしかして私だけか? まあ、この際それはどうでも良いとしよう。ヴォーカルが入れば、そこには、いささか古風なサザンソウルの趣がしめやかにうち薫る。堪らない。
5曲目の「Political Fiction」が本作の白眉。
Beata Przybytek - POLITICAL FICTION
何だろうこの不謹慎な破壊力は。慎みに欠けるギターの音色と、ちょっと下品な英語の発音、そして突然のペット風スキャット。あざといなあと思いながらも、麻薬のような磁力に抗えず繰り返し聴いてしまう。。。
書いていけばきりがないが、本当に16曲ハズレが無い。これはお薦め。
ちなみに、2017年の最新作【 Today Girls Don't Cry 】も良い。ジャケットはこちらの方が断然良い。
これがタイトル曲
Beata Przybytek - Today Girls Don't Cry
これもあざといなあ。