早晩何かやらかすだろうとは思っていたが、学術会議に手を出すとは予想しなかった。色々と思うところがあるが、三つほど書いておこう。
第一に、法律論から言えば明らかに政権側の筋が悪い。
拒否られた松宮孝明さんがコメントしているように、「学術会議の推薦に基づいて内閣総理大臣が任命する」という日本学術会議法の条文は「天皇は、国会の指名に基づいて、内閣総理大臣を任命する」という憲法の条文と同じ構文となっている。どちらの場合も「任命」は形式的なものだと解するのが妥当だろう。天皇と首相では立場が違うのだから「任命」の意味するところも違うのだという意見もあるが、違うのなら違う書き方をする筈だというのが法律のベーシックな読み方だ。日本学術会議法には「独立して職務を行う」とも書かれている。この場合の「独立」は「首相から独立して」と読む以外にない。
ただし法律論に関しては、首相の一存でどうにでもなるという慣例が確立している感があって、現政権は全く気にしていないようだ。安倍政権の成果ですね。
さりながら、形式的ではなく実質的な任命権が首相にあるのだと解すれば、拒否られなかった99人に関しては必然的に首相の任命責任が生じる。そして、この点に関しても政権側は気にしていない可能性が高い。
首相の責任については、ただ一言「責任は私にある」と言いさえすれば、その問題はそれで終わり、という慣例が定着してしまった。これも安倍政権の成果ですね。首相無答責の原理です。
第二に学術会議そのものが無益な存在だという指摘がある。
一理あるが、今になって急にこれを言い出すというのは、どう考えても政権擁護のために言ってるわけで、些かみっともない風ではある。もっとはっきり言えば幼稚な論点のすり替えだ。
学術会議という組織が何か役に立っているかといえば、全く役に立っていない。将来の政権が賢く使うという可能性はあるが、現状では無益だ。だからといって首相の気に入ったメンバーだけで構成すれば役に立つのか? 勿論そんな筈はない。無益どころか明らかに有害だ。そうでなくとも、首相お気に入りのメンバーだけで構成するなら、既に星の数ほどの諮問委員会やら有識者会議やらがある。
第三に、今回の介入の目的が分からない。嫌味ではなく、本当に謎だ。
学術会議側は学問の自由の侵害だと主張しているが、それはまあ立場上そう言うでしょうねというだけで、実際問題として、それほどの組織ではない。6人を拒否ったところで、会議全体が政権側に寄るとも思えない。だからこそ目的が謎なのだ。
この介入に効果があるとすれば、それは現実的なものではなく、あくまで「政権の威光を天下に知らしめた」ということでしかない。それで十分じゃないかという考え方も、勿論あり得る。目的のために権力を行使するのではなく、権力を行使すること自体が目的だったとすれば、それはそれで実に菅さんらしい。