
謎の楽器と謎の曲
アルメニアの歌手Narine Dovlatyan。どう読むかは難しいところだが、アルメニアの人名をカナ表記する時は、何となくロシア語読みに倣うという慣例があるので(そう思うのは昭和の教育を受けた世代だけかな?)、その慣例に従えばナリネ・ドヴラチャン。
wikipediaにはジャスヴォーカリスト兼女優みたいに書いてあるが、近年は自分でも曲を書いたりして、ぐぐっとポップス寄りの歌が多い。そんな中で、2015年に発表されたこの曲は相当に異色で、かつ美しい。
映像も美しい。
Narine Dovlatyan - Al Ayloughs | Նարինե Դովլաթյան - Ալ Այլուղս
アルメニアは美人が多いことで有名だ。東西文明の交錯する地なればこそ、かくやあらん。羨ましい限りである。
歌われているのはコミタス(*1)の採録したアルメニアの古謡。タイトルのAl Ayloughsは「赤いハンカチ」の意。ということになっているが、上記のyoutubeページには「このメロディはクルド人のものだ」というコメントが陸続と寄せられていて、真偽は不明である。私ごときが判断できる筈もない。
動画に写っているのは4人だが、実際にはヴォーカルのNarine Dovlatyan以外に6人のミュージシャンが参加している。編成はピアノ、ベース、ドラムス、パーカッション、Blul(縦笛)、Tar(ぱっと見ウクレレみたいな謎楽器)。編曲は Miq's Art projects とクレジットされていて、Tar奏者のMiqayel Voskanyanが主導したと思われる。彼は普段から自身のバンドでフォークジャズみたいなことをやっていて、本作のピアノ、ベース、ドラムも彼のバンド(*2)のメンバーだ。
風変わりな民族楽器を交えつつ、古のメロディを美しく昇華する手腕はさすが。コーラスの重ね方もエレガントだ。
ただし、Tarタールという楽器がよく分からない。結構頑張って調べたが、分からないことだらけだ。西はコーカサスからイランを経て東はキルギスあたりまで広く使われる楽器だが、地方によって様々なヴァリエーションがあり、特にコーカサスのものはイランのタールとは随分と違うらしい。基本的にはクワの木で出来た「8の字型」の胴に革を貼った造りで、三味線のように革の上にブリッジが載っている。そしてネックには微分音のフレットが打たれている。弦がどうなっているかが本当に分からないのだが、音を聴いた感じではスチールの複弦っぽい。ピックも金属じゃなかろうか。さらに共鳴弦が張ってあるせいで、バンジョーとシタールの中間みたいな不思議な音がする。謎楽器すぎる。誰が詳しい人がいたら教えてくれ。
余談だが、アルメニアは世界最古のワイン産地だと言われている。これについても、隣国のジョージアが「俺たちが最初だ」と主張していて真偽は不明である。
*1 https://en.wikipedia.org/wiki/Komitas
*2 MVF Band (Miqayel Voskanyan & Friends Band) この名義でアルバムも出ていて凄く良い