酒の類いは概ね好きで、ウイスキー、ラム、テキーラ、ワイン、ビール、日本酒、などなどなどなど、何でも美味しく飲む。とりわけ好きなのがタダ酒で、人様から頂戴した酒に関して美味いの不味いのと文句を言うことは滅多に無い。
滅多に無いが皆無ではない。今回は言いたい。美味い不味いではなく、甘いのだ。
プラハオペラのスタッフからお土産に頂いた一本。その名はBecherovka。

チェコ語。銘柄が既に読めない。安直な私は通訳のT氏に教えを請う。
「なんか貰ったんですよ、ベシュロフカ? とか何とか。。。」
通訳T氏即座に応えていわく
「ああ、ベ
ヘロフカですね。養命酒みたいなものらしいですよ」
自身は全く酒を飲めないというT氏がすぐに分かるくらいだから、お土産としては割と定番なのかも知れない。ベ
ヘロフカと「ヘ」を太字で書いたが、これは日本語のハ行とは全く違う子音で、喉の奥から強く息を押し出すような音だった。バッハやシューマッハの[ch]かと気付いたのは、ずいぶん後になってからだ。いやアレはドイツ語だから関係ないか。でもすぐ隣だし同じビール文化圏だし、正書法の確立に当たっては何らかの影響があったのかも知れないと勝手に想像する(*1)。
ビール文化圏と言っても、それはチェコの中でも主に西側、プラハを含むボヘミア地方だけのことらしい。東側のモラヴィア地方は全くのワイン文化圏だ。あとはポーランドに近いシレジア地方というのがあって、この三つでチェコが構成されている。というのは通訳T氏の受け売りだが、モラヴィアのワイン文化はハンガリーの影響なのかな。
さてこのBecherovka、ボトルを見るとアルコール度数は38%。ということは醸造酒ではなくリキュールということだろうか。仔細に瓶を眺めても、私に読めるのはこの38%Vol.とPRODUCT OF THE CZECH REPUBLICのみ。裏側には2言語での記載があるが、これはチェコ語とスロヴァキア語なのかな。両者の違いは方言みたいなものだと私は漠然と思っていたが、割と違う言葉らしい。日本人の通訳T氏が「僕はスロヴァキア語はぜんぜん分かりません」と言ったのは本当に驚いたが、そのくらい違うそうだ。「でも彼らはずっと混じり合って暮らして来たから慣れてるんでしょうね。それぞれがチェコ語とスロヴァキア語で喋っていて意思疎通出来てるみたいです」。
余談が長くなったが、それでは一杯。

なかなか素敵な琥珀色だが、その味や如何に、というのは最初に書いてしまったではないか。
甘い。ラムやバーボンの「甘口」というのとは明確に異質な甘さ。甘口ではなくリアルに甘い。大量の砂糖が入っているのか、あるいはこの琥珀色は蜂蜜によるものか。色々と薬草系の香りが複雑に立ち上がっては来るのだが、いかんせん甘さのインパクトが強過ぎてグラスを持つ手さえ心なしかベタベタと粘つくような気がする。「養命酒みたいなものらしい」というT氏の伝聞情報を今さらながら思い出す。そうか。そう来たか。
加水しても甘さは変わらず。
激甘リキュールといえば、以前貰ったシチリア土産のリモンチェッロがそうだった。アレもなかなか手強く、最終的には冷凍庫でキンキンに冷やしたストレートを小さなグラスでぐいっと一気に飲むのが正しいと悟ったのが、果たして「養命酒みたいなもの」をキンキンに冷やすのは正しいのだろうか。
ライムジュースで割るとずいぶん飲みやすくなったが、これはやはり邪道だという意識が拭えない。基本的に私は酒に水と氷以外の混ぜ物をしない派だ。ラムに限っては、船乗りの酒ということで壊血病予防のためにライムジュースを入れるのも作法かなと思うが、それ以外は、ちょっとどうかと思う。たしかに他の酒もライムジュースで割ると美味しいと思うことはあるのだが、結局どれも同じような味になってしまって、じゃあアルコールなら何でもいいじゃないかという話になってしまう。酒そのものの味を楽しむという道からは外れていると言わざるを得ない。
そうこう言いつつも、まだボトルに7割方残っているBecherovka。どうしたものか。
とりあえずは口直しにラフロイグを一杯。
*1 後日T氏と再会する機会が有ったので確認したところ「偶然でしょう」とのこと。
2013.10.28追記