大阪市の分割消滅を問う住民投票が近い。私自身は当事者ではないので余計なお世話だが、かねてから不思議に思っていることがある。大阪市を解消し分割するとして、なぜその先が市ではなく特別区なのか?
政令指定都市と都道府県が並び立つことで「二重行政」の無駄が生じるというのは、まあ一部そういうこともあるだろう。もっとも、それは全ての政令指定都市について言えることだ。箱モノに関して言えば、政令指定都市であろうとなかろうと全ての都道府県庁所在地で当てはまる。さらに言えば、都道府県と国の関係でも、(無駄と考えるかどうかは別として)原理的に「二重行政」は発生する。
なので、「二重行政」の無駄を避けるために政令指定都市である大阪市を解消しようという話は、まだ分からなくもない。だけど、それなら幾つかの市に分裂するので良くはないか。わざわざ区を目指す理由は何か。
特別区という存在は、地方自治の観点からすれば明らかに市よりも格下である。東京都の特別区は、首都の治安と基幹インフラを国の管理下に置くために設けられた制度で、だから当然、自治権は制限されている。
卑近な例を挙げれば、東京の23区それぞれにある保健所は東京都庁の管轄下にはなく、国の直轄となっている。かつて(あるいは今も)感染症対策は治安対策であった。首都の治安維持を自治体なんぞに任せておけるか、という話である。
ワシントンD.C.が連邦政府の直轄地で他州に比べて大幅に自治権が制約されているのも同様の発想だ。そういう国は多い。
というわけだが、かように不自由な境遇を何故に大阪市は目指すのか。
どうしても「二重行政」が嫌なら、大阪市は複数の市に分裂すれば良い。さすがに4つに分かれるだけでは、その全部が政令指定都市になってしまうから、10ぐらいの市に分かれれば良い。その程度の面積、人口の市は珍しくない。あるいは、4つの市に分けた上で政令指定都市への移行申請を市議会もしくは府議会が認めない、という方法もある。これで「二重行政」は解消されるのだが、さて、どうなのか。
大阪市が複数の市に分かれるという案が大阪市民の賛同を得るのは、さぞかし難しかろうと思う。だからこそ、区に分かれれば何か良いことがある、という話が不可解でならない。